第11話 はなせ、はなせ
彦一が、熊本からのもどり道、宇土の茶店でおもしろか話しで皆をワンワンはずませた。出かきゅうとしたら、
「八代へ行くとは幸い、同道いたせ。」と、二人の武士が、しゃりむり道連れにしたげなもん。
「しもうた。」
と思うたげなばってん
「ヘイ、ヘイ。」
と、手ばこすり合わせち、ついて行ったげな。一人の方は、鼻がつっかげとったげなもんだけん、妙な声で、
「ハナセ、ハナセ」
と、話ばさいそくする。その「ハナセ、ハナセ。」が気味の悪かもんだけん、
「決して立腹なさいますなよ。」
と、ことわって、
「竜峰山にすむ天狗が、相撲ばとろうとせがみますので、ヨシと言うて取り組みましたが、その力の強さ、強さ。パッと離れて天狗の高い鼻に両手でぶらさがりました。そしたら妙な声でハナセ、ハナセと言いました。」
「無礼者!」
と、刀に手をかけた武士を、一方がとめて、
「早う去がれ。」
と、言うたげな。