第21話 おいはぎと刀

彦一は貧しかけん、大晦日は借金取りの来て、いつもおおごとだったげな。 ある年の暮れ、彦一は裏庭で瓦をやたらわりだしたげなもん。よめごは、そーにゃ心配したげなばってん、彦一は、

「心配すんな、なんとか銭のくめんばすっとたい。」

と言わしたげな。

そん頃、毎晩、松馬場に、おいはぎの出よったげなもん。彦一は、そん、おいはぎから刀ばおっとって、それば売ってよか正月ばしょうと思っとったったい。

彦一は、瓦ば木の箱に入れ、油紙できれいに包ましたったい。そして、その上に御用金と書いてはらしたったい。 彦一は用意のできたけん「ふ」ばこうて来て頭につけ、脚絆ばはき、日が暮れてから松馬場に行ったげな。

あんのじょう、おいはぎが来て、

「待て、待て、待てというどが。」

と呼びとめたげなもん。彦一は、

「なんな、おらぁ御用金ばもっていかんばんけん急ぐとたい。」

と言うと、おいはぎは

「ぬしゃ、そーんきつかごたるね、おれがかせいしょうか。」

といわしたったい。

「うん、そりゃありがたか、そんなら、ぬしが刀ばもってやろうたい。」

といって箱をわたし、刀を受けとったったい。おいはぎは、箱をかついで走ったもんだけん、彦一は、

「早かぞ、そぎゃん急ぐな、急ぐな。」

といいながら、うしろさん走っていって、刀ばとりあげたげな。

第22話 まつぼり

彦一は、そーにゃ酒ば好かしたもんだけん、よめごは毎晩酒かいに行かしたげな。

そればってん、貧しかもんだけん、年のくれには借金取りのおしよせて、さすがの彦一も、これには困らしたったい。

「ちっと、銭のあっとね。」

と彦一は言わしたげな。

そればみて、よめごは銭ばもって来たったい。

「そぎゃん銭ば、どこから持って来たっかい。」

と彦一はきくと、よめごは、

「あたが毎晩酒ばかわせたろが、そん時、まつぼりをしたったい。」

と、言わしたげな。

彦一は、酒ば毎晩のんで、あれしこ銭のたまったけん、酒ば止めたらさぞ銭のたまるどたいと思って、翌年から酒は一滴も飲まんだったげな。

又、年のくれがきたったい。彦一は、よめごのまつぼりを楽しみにしていると、よめごは、

「あたが酒ばのまんもんだけん、なんのまつぼりのできまっしゅかい。」

と言わしたげな。

第23話  きつねの水およぎ

彦一にちえ負けして、ひどか目におうたきつねは、

「よし、こんだァ、さむらいにばけち、彦一ばへこまきゃてやる。どぎゃん彦一でん、さむらいにゃ頭ンあがるめゃ。」こぎゃん考えて、萩原ン土手でまっとったげな。とこるが、あんのじゅう彦一がきた。

「やい小僧、さむらいさまのおとおりだ。」

彦一ちゃ、ひったまげて、つっこきゅうでしたげなばってん、きつねて知って、にやにややって、

「おや、だっだろかとおもたりゃ、水泳の先生やありまっせんか。こないだお城ンとこっでおうたとき、石ばかろち、おえでみすっていわしたばってん、今、こん下ン川でおえで見せなっせ。」

とこるが、およぎのへたなきつねは、

「こらしもた、みょうなさむらイ、ばけたもん。」て、あとぐやみしたばってん、負けん気にになって、

「よし、おえで見すっぞ。」

彦一が、くすくすわるて、ふろしきィ石ばつつで、きつねン首ィゆわいつけたげな。

およぎがへたん上、石までゆわいつけられ、たちまち、うんぶくれち、アップアップして、

「彦一、たすけちくれ。」

ちゅうたげな。

第24話 はなおうじ

こんごろン若侍たちゃ、ビロードン着もンば着っとんはやっじゃたもんな、

「いっちょん武士らしゅうなか、着ちゃでけん。」

て、ふれば出さしたげな。そりばってん、そろっと町ン中で、着て歩くもんのおって、きかしたもんだいけん、彦一ィ相談さしたげな。

「とんさん、萩原ンどてン桜も、もう見ごろでっしゅな。いつ花見ばしなはりますか。」

すっと、とんさんも彦一ン気持ンようわかっとらすもんだいけん

「そぎゃんたいね、あさってぐりゃどぎゃんだろか。」

「よございますな。やりまっしゅか。」

花見ン日は、そらもうよう晴れて、よか天気だったげな。そん日は、とんさんのビロードンきもんば着てよかて、いわしたもんだいけん、若侍たちゃ、もっとるビロードンきもンのよかつばきて、大いばりだったってたい。

そこんとこれ、彦一が、そらもう、げさっかつの、よそわしかつの、きたァなかなりばした町人ば、ぞろぞろつれてきてかり、とんさんの前に出てきたげな、とんさんのそん町人たちばよう見らすと、ぜんぶぞうりばっかりゃむごうよかつばはいとったげな。

「彦一、今日はまたよかぞうりばはいとんね。」

「ああ、こんぞーりかいた。こらですな、こんごろん町人の間ではやっとる、ビロードンはなおンぞーりですたい。」

「ほほう、こりゃおもしろか。わしン家来ン中にゃ町人のはなおば、きとっとんおる。」

て、言うてわらわしたげな。
そりかりさき、ビロードン着もンば着っとしゃがにゃ、

「や、や、こりゃ、はなお氏……。」

て言われち、だぁれんきるもんのなかごてなったげなたい。

第25話 はたけのうね

ながしで球磨ン相良さんな、塩にそうにゃ困っとらすて、聞かした松井のとんさんな、彦一ィ塩ばとどくる役目は言いつけらしたってたい。彦一ちゃ、雨ン止むとば待つとって八代ば出かけたげな。ひるごろ、領地ざかいンとうげにちいた時、旧道じゃせまんかし、ひどか坂ンいくつもあるもんだいけん、馬子たちゃ新道さん行こうてしたばってん、彦一ちゃ、

「だゃじな旅だけん、旧道さん行きまっしゅかい。」

て言うて、どんどん旧道ば行くとげな。十六頭ン馬にちいとった馬子どンたちゃ、ちったブツブツ言うたばってん、

「しょんなかたい。」

て、彦一ンあて、ちいて行ったげな。

旧道じゃ雨ン後で、岩ンゴツゴツ出とったり、ふとか水たまンのあったりしてかり、なんぎしいしい、よんよこし、球磨川ン新道さん出ちきて、ほっとしたげな。

丁度そん時、太か荷物ばかるてかり、球磨川ン道ば、こっちゃん上ってくる旅あきないに会わしたってたい。

「馬子どんたちゃ、よう旧道さんきたなあ、新道じゃ、とちゅンとこんのこん雨で、うっかえとったばい。」

そるば聞イた馬子どんたちゃ、ふのよかったて思うて彦一ばみたりゃ、

「うんね、おら知っとったっじゃなか、ひょっとすっとてにゃ思うとったばってん、よかったなあ。」

そしてかり、

「昨日たいな、雨ンちっとやんだもんだいけん、畑さん出ていって見たったい。すっと、新らしかうねは、だらってうっかえとるばってん、古かうねんほうは、ちゃんとしとっどが、そっだいけん、ひょっとすんならて、おもたったい。」

馬子どんたちゃ、彦一ンごらにゃかんしんしたげなたい。

第26話 彦一のまじない

 彦一がえんそばん、昔かんのぶげん者だった金助どんがえも、金肋どんの代になってから、どんどん落ちぶれて来たげなたい。

ところが、金助どんな正直もんの旦那だったけん、だっでん不思議に思とったったい。金助どんも、神さんに頼ったり、易者に見てもろたりしたばってん、あからんだったげな。どぎゃんしょんなしゃ、彦一がえ開きぎゃいったりゃ、

「なんな。そぎゃんこつな。そら、やしいこつばってん、今は言われんたい。あしたン朝、早よう妙見さんに来てみなっせ。まじないばしてやるけん。」

 て、おしえたげな。そりかり

「妙見さんに来る前、きっと家ば守るって一回まわってきなっせよ。」

 あくる朝、ごっときィ金助どんな約束のごつ、家ば守るってめぐってみらしたげなもん、すっと、納屋んぐるんのよそわしかてひったんがってしまわしたってたい。そりかり妙見さんの方さんいきよらしたりゃ、こんごろかりぶげん者にならいた善兵えどんと、男したっの、いっそでもう畑ばうちよらすとばみらいたもんだけん、はがゆうなって、内つぁん走ってもどって、

「こらっ、わっどまなんきぁ、善兵えどんがえんもんな、いっそでもう畑ばうちよらすじゃなっか。」

 て、おごって、男したちば競争ンごっして、たたきおけえてまわらしたげな。ぜんぶねとぼけっごっして、おきってきたとこっで、

「今日かり、おるもぬしどんと一緒にしごっするけんね。きゅうは、しごっする前、妙見さんにまいってきゅうじゃなっか。」

ぜんぶばつれち、妙見さんさんきて見らしたりゃ、彦一がにこにこしてまっとったげな。彦一が、

「まじないばおしえちやろか。」

て言うと、金助どんなもうようわかったって、何べんも礼ば言わいたげなたい。

第27話 大ぼらふきくらべ

薩摩ン国の甚四どんと、肥後ン彦一どんが、松井さんの前で、ほらふきくらンべばしたげな、どっちも名売ったとんちもンばっかりで、お国ンの名にかけてン太かほら話しばもって来たってたい。はじめ薩摩ン甚四どんが話し出さいたげな、

「薩摩にゃ、桜島大根ちゅうて、太か大根のあるばってん、今年は何さまそん大根のゆうでけて、畑一ミヤァに植わりきらんごたっとのでけましたったい、何さま、まわんの三十尺どまあリましたろ。」

甚四どんの話ィ、松井の殿さんも、家来たちもひったまがってしもたげな。とこるが甚四どんな、にこって笑うて、

「なぁん、この大根がみんな葉なし(話)ですたい。」て、言うたけん、みんなは、にがわりゃしたげな。こんだ、肥後ン彦一どん、どぎゃん話ばすっどかて、まっとったりゃ、「エヘン」て、一ちょうせきばりゃばすっと、殿さんの前さん出ていたち、おじぎばして、

「こん前ンこっでした、ちょうど、わたしが「ふだん辻ン」とこるば、いきよりましたりゃ急に大雨ン降っじゃあて、ぬれてこまっとりましたりゃ、侍さんの二、三十人どまゆるっとはいるきる太か、ふきの葉ばもって来て、そん中ァ、ぬれとった人たちば全部入れちもろうて、大助かりしましたたい。」

こン語ば聞ィとらした松井さんも、

「彦一、八代にゃ、そぎゃん太かふきのあっとかい。」

て、言うて、ひざばのり出ァて、聞かしたもんだけん、彦一も

「はい、殿さん、こらぁ、ほらァふき、ですたい。」て、言うたげな。

薩摩ン甚四どんも、彦一ァ、おれよか一みゃあ上ばいておもいながり、もどらいたげな。

第28話 梅の実

 八代ンふもとに、わるか銀ぎつねのおって、人ん通っと、わるかこつばっかりしよったげな。ちょうど彦一が球磨川ン鮎つりいたてもどりみち、梅ン木ン下でゴツンて梅ン実のあたったもんだけん、上みたリや、きつねやつがわるとる。はらんたったばってん

 「おい、ありがと、こらあうめえことにうちあたるってこつだろう。ようおしえた。こらぁ少なかばってん、あとかり食えよ。」

 彦一が鮎ば一ぴき木ンねもとにおいて、赤か舌どん出してもどったげな。あくる日、こん狐は、きずだらけで、

「彦一ちゃん、もうわるかこたけっしてせん、ひどかめにおうたっばい。」

「ほう、どぎゃんしたっな。」

「あんたがいったあとかり、役人のぐっさりきたけん、うんとほうびばもらおておもうて、梅ばぐっさりくらわせたりゃ、はりきゃあて、おりばつかまえて、うちころさりゅうでしたっばい。」

「そぎゃんだったな、これからわるかこたしなんなよ。」

きつねも彦一にゃ、かたんだったげな。

第29話 とっくりのなぞ

 光徳寺の珍念な、頭ンわるか上、大ぐらいだったげな。ある日、和尚さんの小僧ばようで、

「珍念、十三里うまかつばこっけ」

て、いうて使いに出さしたげな。ところが、しょぼたれてもどってくると思うとったら、元気ゆうもどってきた。

「和尚さん、こっきました。はい。」

和尚さんな、にこにこしてうけとらしたばってん、ピンとこらしたげな。あくる日、また小僧ばようで、

「酒ば、二升こっけ。」

て、いうて一升どっくりばやらしたげな。

「和尚さん、こら一升どっくりでっしゅ、二升は、ひゃりまっせんばい。」

和尚さんな、小憎ばにらみつけち、

「とっくりきいてみれ。」

ぽかんとしとる小僧に、

「よかか、昨日は安かったばってん、今日んとは彦一でんとっきりみャ。」

て、いうて、はってかした。

小僧は、とっくりばかかえて、また彦一んとこりいたて、

「彦一ちゃん、たすけっくだり。」

「どぎゃんしたつな、とっくりばかかえて。」

「あって、こんとっくりに、酒ば一升こっけ、わからんなら、一升どっくりィきけ、彦一もわかりみゃぁて。」

「そぎゃんな、とこっで、とっくりきいてみたかな。」

「そぎゃんいうたって、とっくりのものばいうもんな。」

「あって、和尚さんなとっくりきけていわしたろもん、うそはいわっさんどもん、どう、おるがきいてみろか。」

彦一が、とっくりィ耳ばひっつけて、

「とっくりどん、あんたん腹にャ、酒一升入るかな・・・、なん、一升しきゃ入らん、あ、小僧さんの腹が、うらやましか・・・。あ、小僧さんの腹がそぎゃんひろがっと、子どんがくせ、大人ンしこめしばくう・・・、うん、そんかわり、やんもせんばってん、小僧さんな、ようだり、ぼやっとしたり…、なに人間のくずばい・・・、そぎゃんな、わかった、わかった、そぎゃん言おう。」

「珍念どん、いまんときいたな。」

小僧は、つらばまっきゃして、

「彦一ちゃん、ようわかりました。こりかり気ばつけます。」

「えらか、和尚さんもよろこばっしゅ。」

大ぐりゃばやめた珍念もよか和尚さんになったげな。

第30話 彦一と大石

さんかんのとこっで、村ン者たちが何かがやがやさわゃどる。ゆんべの大雨で、山くずれンして、太か石のころびだゃて、道イうっぱさまってしもうとるとこるだった。あんまり太か石で、重うして、だあれもどぎゃんもしきらんだったげな。こまっとるとこれ、ちょうど力ン強か男の通りかかったもんだけん、たのうでみたら、

「おら、今、腹ンヘっとるけん、飯ば食わせてくるんなら、その石ァ運んでやりまっしゅたい。」

て、いうた。村ン者な、そんくりゃのこつあ安しいこつ、て、いうて話しおうて、四しゅだきのかみゃ、一ぴゃたゃてごっそうした。男は腹、一ぴゃくうて石のとこりいたて、

「さあ、石ば運ぶけん、おれんせなきゃ石ばのせちくれ。」

みんなぷりぷりはりきゃあて、じぶんでやれといいだした。男は、

「石ゃ運でやるていうたばってん、このせなきゃのせてくれんことにゃ運ばれんばいた。」

て、はってこうてしよったとこり、日奈久かりもどリよった彦一が、こればきいて、

「おっさん、ちょっと待ちなり。」

ていうて、村ンもんに、

「あ~たたちゃ、その石のとこれ、石よか太か穴はほってくんなり。」

村ン者な、何かしらんばってん彦一のいうごつ太か穴はほったげな。

「おっさん、こんあにゃ、あんた、はいんなり。上かりこん石ばころばきゃて、せなきゃのせちやるけん、そりかり運びきっどもん。」

男は、まっさおなって、がたがたふるいだしたげな。

「運ばんとなら、役人にうったゆうか。」

男は、村ンもんに、さんざんあやまったうえ、金まではるって逃げだゃたげな。あとかり、みんなで、こん石ゃ穴んなきゃころびゃきゃあて、かたづけち、よろこうだげな。

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吉住酸素工業株式会社