第31話 切腹した彦一

師走がくっと彦一の家にゃ、みゃあにち借銭とりの多してこまっとったげな。そっで、かかさんと相談して、魚屋かりまぐろん腹わたばこうち来て、彦一の腹ン上のせて、死んだまねばしとったげな。借銭とりの来ったひ、かかさんが、

「彦一ァなあ、こぎゃん借銭ばっかっで、人さみゃめいわくかけちすまんけん、よろしゅいうてくんなりちゅうて、腹切って死んましたっばい。」

て、来る人ごて涙ばながすまねして、ふとんの中ばめくって見すっと、彦一の腹ン上、腹わたんゆたゆたしとる。借銭とり来た人たちゃ、だりもかりも

「むぞなげなこっしたな。よかひとだったて。」

て、いうて、香典ばええて、きのどくしゃしてもどっていったげな。あくる正月にゃ、彦一ちゃ朝はよう起きって、うんともろうた香典で、紋つきの着物ンは買うて、借銭のあった家ば一軒一軒年始まわりしたげな。

「おめっとうございます。みなさんのお陰で彦一も、こんとおり生まれかわって来ました。よろしゅうおねがいしますな。」

みんな、あいた口のふさがらんだったげな。

第32話 お金もち

ぜんもたん彦一だけん、うんと彦一ィ頭ばさげさしゅておもて、きつねが綿屋金兵衛ちゅう八代一のぶげいしゃにばけち、萩原ン土手、まっとったげな。とこるが、彦一も錦屋ンだんなんのこぎゃんとこり一人おらすはずァなか、ておもてぴんときたもんだけん、知らんふリばして通ろうてしたりゃ、

「彦一、どけいくとかい。」

ちゅうて、声はかけち来た。

「あらら、こら、綿屋ンだんなさん、よかとこりあいました。こんまえんこた、うもう話のつきましたばい。」「そぎゃんか、そらよかった。」

「これかり、いたてみまっしゅか。」

「うん、よかたい。お礼はうんとすっぞ。」

きつねは木の葉の金ばふところかり、うんとばっかり、ぢゃあてみせた。

「まあ、お礼のなんのて、あとでよかですばい、なんさま熊本にも、なかごたっとばもらうごつしとります。」

「えッ…-。」

「太さは仔牛ぐんにゃで、番犬にゃもってこいですたい。」

犬ときいて、つらの色、失のうた、きつねば見て、

「どろうぼん番、猟、特にきつね、たぬきゃ生かしちゃおきまっせん。」

「ひ、彦一・・・・・。」

きつねは、悲鳴ばあげて逃げたげな。

第33話 木の子

松井のとんさんな、きのこん、そうにゃ好きだったげな、ある年、

「一軒かり千本ずつ、木のこばもってけ。」

て、役人どんが彦一ン村もいうてきたばってん、こんとしゃ、また、とつけみにゃでけん年だったげな。どぎゃんすんならよかろかていうち、村ンもんがこまってしもうとるとこれ、彦一がきたけん、彦一ィたのんだげなたい。彦一ちゃ、木の苗ば千本もって、役人のとこれいったげなたい。

「きのこば、もってきましたばい。」

役人たちが、中ばみて、

「彦一、こら、きのこじゃなかじゃなっか。」

「そぎゃんこつあなかでっしゅが、きの子ですばい。」

「ばかんこついうな、きのこてにゃ、しいたけんこつぞ。」

「ああ、そぎゃんでしたか、しいたけならもうありまっせんたい。」

「しょんなかたい、来年なまちがわんごっもってけよ。」

「そぎゃんかいた。しなら、もう一ぺんききますばってん、きのこていうとは、しいたけんこつ。しいたけていうとは、きのこんこつですな。」

「うん、そぎゃんたい。まちがゆんなよ。」

「はい、はい。」

彦一ちゃ、そんままもどされたげな。とこるが、あくる年の秋、まぁた、役人のきて、

「一けんかり千本ずつ、しいたけばもってけ。」

て、いうて、ねんばおしてもどったげな。ふのわるかこてにゃ、まぁた、でけんだったけん、だぁるもこまってしもうた。しょんなしゃ彦一が、また木の苗ばかるうて、いったったい。役人たちゃ、こんだ彦一もどぎゃんでけみゃて話しよっとけもってきた。なかばあけてみたりゃ、木の苗ばつかり、

「こら、彦一、とぼくんな。あぎゃんいうたて、まぁた木の苗ばもってきたじゃなっか。」

「はい、まちがわんごつもってきましたばってん、何か。」

ちゅうて、とぼけたつらして、

「あって、去年のこつ、きのこていうたぁ、しいたけんこつ、しいたけちゅうとは、きのこんこっていいなはったけん、ことしゃよかろうておもうて、きたっですたい。」

第34話 ものいうねこ

彦一ンうちにゃそおん、りこうかねこのおったげな。ある日、おっかさんのぬいもんばしとらすと、にわか雨ンふってきた。ちょうど外でひるねしとったねこんたまがって、

「かかさん、雨ンふってきたばい。」

て、いうた。おかしかなあ、て思うて外ば見ると、ねこンおってほんなこて雨ンふりよる。そっで、いせぇんでほしもんばなおさした。彦一が、よそかるもどってきてかる、すぐこるばはなさした。とこるが、彦一ちゃ、

「そぎゃんこつのあるもんか・・・。」

て、うてあわんだったげなたい。とこるが.よこにおったねこやつが、

「ほんなこつばいうてなぁ、かかさん。」

て、言うたもんだけん、たんがって、松井のとんさんに、このねこばやらしたげなたい。とんさんも、ずっとなごうかわいがらしたげな

第35話 すすだけうり

「ささやぁ、すすだけえ。」

年ん暮れの寒か日のこつ、八代ン町ば彦一が売ってされきよったげな。とこるが、平屋と油屋の番頭どんが、

「ほら、こんまえ、かごん上、きじばのせて、からす、からすていうて売っといて、知らんけん安かろたい、て、おもうて『からすばくれ』て、いうたりゃ、ほんなからすばやった小ぞうたい。仇ばうとい。」

「そらあ、おもしろかばい。いっちょやろ。」

二人りゃ話しばきめち、

「ささば一本くれんかい。いくらだろうか。」

「はい、一せんですたい。」

「たっかね。」

言いながり、平屋がさき一本こうたげな。そるかる油屋が、

「おれにゃ、すすだけ一本。」

彦一が、また一本とってやったりゃ、

「彦一、こらあ平屋さんとおなじこっちゃなっか、平屋さんな、ささ、おら、すすだけてこうたっぞ。」

こりば聞いて、にやっとした彦一が、

「こらあ、だっだろかておもとったら油やン番頭さんでしたか。名前やーたしか・…-。」

「おら吉兵衛、こん人ァ平屋ン久六さん、ようおぼえとけ。」

「きゅうは、こんまえんごつだまされんぞ、はよ、ささじゃなか、すすだけばやらんか。」

おてちいとった彦一は、

「なあ、だんなさん、おが売っとる竹も、屋号はささ屋で名はすすだけですたい。」

二人とも二の口ちぁでんだったげな。

第36話 いももんどう

八代ン町の徳平ていう、人かりだまされたことんなか、ぶげん者のいんきょさんのおらしたげな。彦一ちゃ、こんひとばだましてみんばんておもち、庭さきンとこっで、

「ごいんきょさん。ことし、わしがつくったからいもはなあ、こぎゃん太かったばい。四斗だるぐらいあったろな。」

「ウハッハハー、彦一やめんか、そぎゃん太かからいもてあるもんか。だまそうてしたてちゃわかっぞ。」

「そぎゃんたいなあ。ほんなこたあ五しょうだるぐりゃ・・・・・。」

「ばかんこつ、そぎゃんとんあるか。」

「そんなら、一升どっくりぐんにゃ……。」

「んにゃ、まあだ太すぎる。」

「うーん。一合びんぐりゃだったろな。」

「うん、そんくんにゃだろね。そりがあたりまえたい。彦一おりばだますとはむつかしかろが、ハッハハハ・・・・・。」

彦一も、おかしゅなって、

「ウッハハハ……。」

「こら、彦一、ぬしがおかしかこつァなかろうが。」

「ばってん、ごいんきょさん、まあだ、からいもは苗ばうえたばっかっでなかつばいた。」

徳平どんも、くやっしゃしとらしたげな。

第37話 わたかい

中嶋ン町ィよくンふきゃー、わた屋ンあったげなたい。いなかもんてみたなら、高こうわたばうりつけよったげな。彦一が、こりばきいて、わたきゃぁ行ったげな。

「ごめんなっせ、わたん実ば五しょうばっかりくだり、実はなぁ、わたかりおとしたっでなかれんば、こまっとですたい。」

「ああ、そぎゃんかいた。ちょっと、まっとんなっせ、今おとしてやりますけん。」

わた屋は、いせえで十貫目ばっかんのわたばじゃあてきて、実ばとっだしたげな。彦一ァそうば見て、「そん実のはいっとるわたは、いくらでっしゅか。」

「こらあな、まあまけといて二円がっぐんにゃでっしゅな。」

「ほう、たっかですな。」

「ちかごら、何でんあがるもんだけんな。」

話しばしとるうちい、実ばとってしもうて、

「またせましたなあ。すんまっせん、ちょうど五しょうありますばい。」

「いくらでっしゅか。」

「あんただけん、一円二十せんにまけとくたい。」

「そら高すぎるばい。うん、そんならせっかくだけん、実ばとった残りンわたでよかたい。ぜんぶで八十せんですたいな。」

彦二は十貫もあるわたば、八十せんでこうて、さっさもどったげな。番頭どんな、ぢだんだふんで、くやましたげな。

第38話 へいのつた

お城ン裏手ンほうは、だあも見ぎゃこんし、手入れもせんもんだいけん、石垣イ植えちあったつたやつが、土べいイ上がり、お城ン屋根まで、のぼってきとったげなたい。とこうがたい、ある日、殿さんのそるば見つけてかり、「こっじゃいかん、つたン葉ンしげっとっと、敵やつが、そろっとはいってきた

てちャわからんじゃなかか、すぐ取ってしまわにゃわからん。」

役人たちゃ、すぐ人夫ば集めてかり、つたば取ろうてするばってん、もう何年も前かんのっだいけん、なかなか取れんし、しゃいもっでん取ろうとすっと、屋根までうっかゆっとげなたい。そうば見とった役人な、

「こら、わからん、ちょっとよくうとれ、とんさんに言うちくるけん。」

役人な、とんさんのとけいたてかり、

「とんさん、どぎゃんでしゅうか、今、根はうち切っとってかり、枯れちしもうたなら、とるごっすっとしゃがにゃ。」

「うん、よかたい。」

そん話ば、ちょうどきいとった彦一が、

「ちょっと待ってはいよ、そぎゃんこっすっと、つたはとれンごつしなりますばい。」

すっと、殿さんの、

「ばかんこつ、木でん草でんかるっとしゃがにゃ、よおなってしまうどもン、かれちかり取った方が、よかろばい。」

彦一ちゃ、床ン間ンふじづンのかごばゆびしゃてかり、

「こうば見てはいよ、つくっときゃなましかけん、どぎゃんでんまげられますばってん、こぎゃんなってから、どぎゃんもでけまっせんもんな。ふじづるも、つたと同じこつのごたるもんですけん、今とった方がよかっじゃなかろうかて思いますばってん。」

聞いとった、とんさんも役人も、ほんなこっと思うてかり、また、仕事ばはじめらしたげなたい。

第39話 彦一のさいなん

あっ年ン秋のこつ、彦一ちゃばばさんのかわり、日向ン生目八幡さんにまいりぎゃ行った時ン話たい。球磨ばとおってかり、九州の背ていうてかる、たあっか山ば越して行かんばんもんだいけん、三日ばっかりかかってかり、よよんこし日向ンふもとン村ンちいたてたい。すっと、そン村ンもンの、ようけんばっかり集まってか、ガヤガヤ言うとっとば見た彦一ちゃ、ちっとばっかり気にかかるこつのあったもんだいけん、

「なんか、あったつな。」

て、きいてみたげな。すっと、

「じつぁな、こん村ン喜作どんていうて、あきないばしてされくひとんおらすとたいな、そん喜作どんな、ほんなこつぁもう四、五日前もどってくるごつなっとったばってん、まだ、もどってこらっさんとたい。そっだいけんあしたどま、山さがしばしょうかて、話しよったったい。あんたは会わんだったかな。」

彦一ちゃ、そん時、ハッて胸ンきたこつのあったもんだいけん

「気のどくばってん、そン人もう死んどらすばい。」

「なんてな、死んどらすてな、あんたは、そうば見たっ。」

「うンね見ちゃおらんばってんな、こっかり一里ばっかり山道ば行くとしゃがにゃ、太か松の一本ありますもん、そん松の木ン下ン深かたんあたり、死んどらすて思うとですたい。」

村ンもンたちゃ、すぐさみゃたいまつばもって、山さんのぼって行かしたてたい。そしたら、ほんなこて喜作どんの、切り殺されとっとん、見つかったげな。そん晩な、庄屋どんがえとまったった彦一が、朝早よう出かきゅうてしよったとこが、代官所ン役人たちンきてかリ、山賊ン手下だろて言うて、ろうやンぶちこんでしもうたげな。彦一ちゃ、役人に、

「あすこんそばば通っとき、からすン一ぴゃきとったけん、そっじゃなかろかて思うて、言うたっですたい。」

て、説明したばってん、彦一ンこっば知らん日向ン役人たちゃ、

「そぎゃんこつの、わかるか。」

て、ゆるさっさんだったげな。彦一ちゃ、ろうやん中で、なっかぶっとったってたい。

第40話 牢屋んすずめ

彦一がはいっとる牢屋ンある町ちゃ、ぐるっと山ンとり囲まれとってかり、田ン中ン少なかとこっだったてたい。そっだいけん、米は隣ン村かり月一回牛車に積んで持ってきよったげな。そんこつば知っとる山賊どま、そん行列ばしゅうげきして、米ばおっとりよったげな、風ンこつ、さってきてかり、風ンこつ、さあって引きあげて行くもんだいけん、一人もつかまらんで、役人たちゃがっぱりしとったげな。彦一が、牢屋ン入れられてかり、もう十日もたったあっ日のこつ、牢ぱんの、今日は米ン無事つくどかて心配しながぁ話しよったげな。そん日ンタぐれ、きゅうに太か声ばじゃあて牢番ばよんでかり、

「たった今、山賊ン出てきてかり、米ばおっとって逃げていきよる。今すぐ行くとしゃがにゃ間にあうばい。はようそぎゃん役人に言いなっせ。」

「そら、ほんなこつか。そっかり見えばしすっとか。」

「そぎゃんこつ、どぎゃんでんよか。わけはあとかり言うけん、はよ、しなっせ。」

牢番な、おかしかこつば言うやつなあて思うたばってん、彦一ン真剣な顔ンおされてかり役人に言うとしゃがな、役人も彦一ン言うこつば信じたっじゃなかばってん、万一ンこっば考えてか、三十人ばっかんの捕っ手ば連れち、走って山さん行ったてたい。すっと、ほんなこて付きそいの役人たちゃ木にきびられてかり牛車はひっくりかえってか、米ンいっぴゃ散らばっとったてたい。彦一ンおかげで、すぐ山賊たちゃ全部つかまゆるこつぁでけたし、米も全部もどってきたもんだいけん、彦一ちゃ牢かり出されてかり、ほうびばようけんもろたてたい。代官の、

「牢屋ン中きゃおって、ようわかったね。」

て、きかすとしゃがにゃ、彦一ちゃ、

「なんの、すずめんおしえてくれたっですたい。牢屋か外ば見とったとこが、庭や屋根ン上や木ン上止まっとったすずめやっどんが、チュンチュン言いながり、山ン方さんどんどん飛うで行くどがな。そっで、こりゃただごっじゃなか、ひょっとすっとしゃがにゃて思うてかり言うてみたっですたい。」

代官な、こん話ば聞いてかり、

「ぬしゃ、ただもんじゃなかね。どこんなんていうもんかい。」

「わたしゃな、ひごンやっちろン、彦一ちゅうもんですたい。松井ン殿さんなぁ友だちんごて仲ようしとるもんですたい。」

て、言うち久しぶりイ大か口ばあけちわるたげな。

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