第41話 狐とやんぼし

ある日ンこつ、やんぼしどんの萩原ンともば行きよらすとこれ、狐やつが草はりゃ、ひんねしとったてたい。そっば見たやんぼしどんな、ふざけてかり太かほら貝ば、狐ン耳ンとこっで「ウワーン」て吹きならきゃて見とらすと、トロトロよか気持で寝とった狐やつぁ飛びあがるごつ、たんがって「キャンキャン」にゃあて、麓ン山ン中さん逃げち行ったてたい。やんぼしどんな、脳ンねじるうごつ笑うて見とらしたてたい。狐ン耳ンコマクの打ちゃぶれてかり、いっちょん聞こえんごつなったげな。そっで狐やつぁ、そうにゃくやっしゃしてかり、どぎゃんなっとして、やんぼしどんばやっつけちやろて、なんのかんのて思案したばってん、あからんもんだけん、しょてかり知っとった、出町ン彦一ィ間きぎゃいた。

「やしいこったい。こぎゃんしてみんかー。」

て、教えたげな。こんやんぼしどんな、八代にきてから、よう泊まる百姓家ン宮地ィあったげな。狐やつぁ彦一ィ教えられたごつ、ある日、そこん家ンもんの畑さん行かすとば、つけち行たてかり、わざとそん百姓ン者の目につくこつして、藪ン中かりチョコチョコ姿ばじゃて、しばン葉や草ン葉ば体にひっつけち、やんぼしどんにばけちみせたげな。そしてかり、そんまま宮地ン家さん行くまねばして山さんもどっていったげな。百姓ンもんな仕事ンすんでかり家さんもどって見つとやんぼしどんの、縁がわゃ腰かけて煙草どんのみよらすもんだけん

「おどりゃ、こん狐げだ!まあだ、やんぼしどんに化けとる。」

て、言うてかりとなりきんぺんのもんば、よびあつめちきとって、太かこん棒や、竹ン棒で、やんぼしどんばポカポカめった打ちィさしたげな。やんぼしどんな、ほんなこてふてめおうて逃げじゃあて、そっかさき、八代にゃ姿ば見せらっさんごっならしたげな。

第42話  めかくし競走

稲荷さんの祭ンのよびもんな、目かくし競走げなたい。出町かっと、となりン村かっと、選手ば一人ずつじゃあて、いちいん鳥居かり拝殿までん石段ば、目かくししてかり走りのぼる競走げなたい。

「ドドン、ドンドンドン・・・。」

大太鼓ンなりはじむっとしゃがにゃ、ふたりの選手は一ときイ走っじゃあたげな。はじめんうちゃ、隣ン村ン選手が早ようして、すぐじゃ四、五メートルばっかりひっぱなちぁたてたい。

とこるが、石段ンのとけくっと、つっこけちばっかぁおって、あんまりゃ前さんにゃ進まんてたい。それくらぶっと、出町ン選手はコツコツて石段ばたちゃて、ちょうどあんまさんのごつしてドンドンあがっていかすとたい。

そっだもんだいけん、すぐじゃ隣ン村ン選手ば追いぬいて勝たしたげな。出町ン者たちゃ手ばたちゃぁて、そうにゃ喜こばしたてたい。

勝たした出町ン選手ン「ハアハア」言うち、目かくしば、はずさすとしゃがにゃ、見とったもんのみんな、そうにゃ笑いだしたげな。なんの、そん選手は、ほんなもんに目のみえらっさんだったてたい。こんも彦一ン入れ知恵だったげな。

★話の中に不適切な表現がありますが、昔話ですのでお許しください。

第43話 草ばんかげ

あるとき、彦一ちゃ親方さんがえいたて、たのんだげな。

「もう、おんも長ぁこたなかごたる。こぎゃん年とってしもたもんな、こんごら、よう、やみたおすごつなってしもたっですたい。そっでですな、ほんなこてすまんこつですばってん、めいどに行くぜんば、ちっとばっかり、きゃあてなくだまっせんどか。」

彦一が、もう目にゃかからんごて、あわれなこつば言うもんだけん、親方さんも、むげえこって思うち、ぜんばきゃてやらしたげな。とこぉが十日ばっかりしたある日のこつ、親方さんの、くま川ンともば歩りて町さんもどってきよらすとに、彦一ちゃ きゃあおうてしもたげな。

「彦一、ぬしゃとつけみにゃ うそば言うたね。こんまえにゃ、もうあうこつもなかごていうたろが。」

そるば聞いた彦一ちゃ、どてん草ば頭ン上のせてかり、

「はい、そっでですな、草ばんかげかり親方さんば、おごうどりますたい。」

て、いうち、親方さんばおがんどったげな。こっば見らした親方さんも、笑るうち家さんもどらしたてたい。

第44話 たぬきの入道

きつねやつが、いつも彦一ィだまされちばっかりおっとば見かねち、たぬきやつが萩原ン土手で、彦一ば待つとったげな。

「彦一ちゃん。」

「オー、たぬ公かい。」

「きつねやつぁ、ちったばかばいな。いっでん彦一ちゃんにかつがれち・・・。」

「ハッハッハッ・・・・・・ぬしゃ りこさんのごたるね。」

「エー きつねとにゃちがいますばい。」

「そぎゃんかい、なんにばくっとが得意かい。」

「わたしゃ一つ目小憎でん大入道でん……。」

「ほんならいっちょ、ばけくらんごばしてみゅうか。」

「うん、そらおもしろかな、やりまっしゅ。」

「ねーたぬ公見てんさい、あっちかりつえばちいて、としよんの来よらすどが、あんひとば、ぬしが大入道でたんがらせきんなら、おるが負けたい。」

たぬきやつぁ笑うて、

「アッハッハッハッ……わしが大入道になんなら、どぎゃンもんでンひったまがるけんな、まあ見とってみなっせ。」

たぬきやつが雲ンとどくごたる大入道にばけたばってん、じいさんな、なんのこつもなかごつして歩いていかすげな。

「彦一ちゃん、こぎゃんきもン太かもんな、はじめっな。」

たぬきやつぁ、いきばせっきってか「フウフウ」言うたげな。

「そんならこんだぁおるがすっけん、よう見とけよ。」て、いうて、

「ヒヒーン・・・。」

て馬んなきまねばしたげな。

とこるが、じいさんなひったまがって、道のかたすみィちぢくれらしたげな。こんじいさんな、あけめくらのあんまさんだったてたい。

★話の中に不適切な表現がありますが、昔話ですのでお許しください。

第45話 彦一のぜに拾い

八代ン城下ン町人どんが、

「道ばあゆみよって、ひょっと道ばたん落っとるぜんば拾うとんごつ、うれしかこつぁなか。」

て、話しながり通りよったっば聞いとった彦一も、おるもいっちょぜんば拾いぎゃ出かきゅうかて、八代ン町ばされたばってん、どけんもぜんな落ちとらんだったげな。

そっで、彦一も考えて、自分のぜんぶくろかり、ぜんば出ャて道ばたん草ン中きゃふしてて、そるば拾うてみゅうて、草わりゃんなかばさぎゃてみたげなもん。

とこるが、さっかりなげたばっかりのぜんの、どぎゃんしてんみつからんもんだけん、ぜんのおしゅして、なきべすかぶって、草わらんなきャさがしまわったばってん、どぎゃんしてんみつけださん。

こまってしもうた彦一ァ、子どんがするまじないば考え出ゃて、手んひりゃぁつばばのせち、指でポンてたたゃて見たげな。

すっと、つばは東の方さんとうでいったもんだけん、つばんおちったあたりば、いしょうけんめさぎゃてみたげな。

とこるが草ン根ンとこり、ぜんのうっぱすまっとったてたい。

彦一ァ着もんの袖で、汗ばふきながり、ぜんばにぎって、

「ほんなこつ、せんば拾うとはうれしかー。」

第46話 彦一の経文

彦一がえんおっかさんの死なしてかり、今日でもう一周忌になるげな。彦一ちゃ仏さんにお経ばあげちやらんばんて思うたばってん、ぼんさんばやとうぜんのなかもんだいけん、ぜんのかからんこじき坊主ばつれちきて、仏さんの前、坐わらせたげな。とこるが、お経ばあげにゃん時ィなったばってん、こじき坊主のお経ば知っとるはずのなか。ちょうどそんとき、かべン穴かりねずみやつが、チョロチョロつらばだゃたもんだいけん、

「おんチョロ、チョロチョロて、でぇらした。」

て、お経ばとなえらしたげな。たんがったねずみやつが、つらばひっこむっとしゃがな、

「てぇ、いうたら、ひっこうだ。」

ねずみやつが、チョロチョロて逃げたりゃ、

「こんちくしょう、まぁて、のがさんぞ一。」

うしろん方で、こんようすば見とった彦一、おかしゅうなってしもうたげな。とこるが彦一ちゃ、こんおかしかったお経は忘れきらんどこるか、あるばん、ねごついいよったげな。そんとけ泥棒やつがひゃってきて、そろっと戸のふし穴かりのぜてみたりゃ、

「おんチョロ、チョロて、でえらした。」

ひやってして、首ばひっこむっとしゃがな、

「てぇ、ゆうたら、ひっこうだ。」

彦一やつ、ねとるておもとったばってん、泥棒もごらばかしげてにげ出すと、「こんちくしょう、まぁて、のがさんぞー。」たんがった泥棒やつ、ごたぁんかなわでん、ころびでたげな。

第47話 にらめっこ

八代で一番ふとか、かぎ屋ンひとり娘が、とつけみにゃあ いたみィしなったげな。どぎゃんこつがあってん笑わでにゃ一日中泣いとったり、はりきゃたりして、こまらせとったげな。医者どんが、あっちこっちかりきて、いろいろんこつばしてみたばってん、どぎゃんもならん。

「一ぺん笑わすっとよかばってん、むつかしか病人ばい。」

て、いうてもどっていったげな。そっでこんだ、しばいば見せたり、おどんのうたン名人のてようで、どぎゃんかして笑わしゅうてしたばってん、やっぱり、しゅうんてしとらすとたい。しみゃにャとうとう彦一ィ頼みこらしたげな。そっだけん彦一ちゃ、娘がえいたて、笑わんくらべば申しこんだげな。

娘は、彦一と話しとるあいだ、こん人ぁなんちゅうおどか人だろかて思いながり、ねらんごっこばするごてしたげな。彦一ぁよかつらば、いっだんよがませちみせたばってん娘はつんてしとった。そっでこんだあ、口ばむすうで目ン玉ばふとうあけち、ねらんどったげな。娘も、まぁた、まけんきしょくで、口ばよがめ、びんたばふくるかし、目ば丸うしたり三角ィなしたりしたげな。彦一ちゃ、たいぎゃなこらえとったばってん、娘がしみャにゃ舌ばじゃあて、ひょっとこンつらばしてみせたもんだけん、彦一ももてきらでん、

「ワァハッハッハハ……。」

て、ばたぐるうて笑いでャあてしもたげな。そるばみっと、娘も勝ったもんだいけんうれっしゃして、彦一のあんびゃにきゃあつられち、

「ホッホッホッ……。」

て、笑いでゃあてしもうたってたい。かぎ屋ンほうびゃふとかったげな。

第48話 ふしぎなはこ

出町ン庄屋どんのよそかりもどってこらしたとこるが、大事しとらしたつぼン、いつんまにか、われとったげな。庄屋どんな、たんがって、家ンやとい人たちばよばしたげな。

「こんつぼばうちわったたぁだるか。正直ィいえ。」

て、目はさんかきィしにゃあて、はりかかしたてたい。そるばってん、だあるもいうもんなおらんだったげなもん。庄屋どんな、とうとう彦一がえ相談しぎゃこらしたげな。

「なあ彦一、うちわったやつば見つくる、よかかんがえはなかろか。」

彦一ちゃ、いっとき考えよったが、

「そらあな、よかこつんあるばいた。おれまかせときなっせ。」

そぎゃんいうと、彦一ちゃ妙見さんの神主さんがたかり、ふうるか箱ばかってきて、庄屋どんがたでかけていかしたげな。やとい人たちば、せんぶあつめち、そん前箱ばすえち、

「こん箱は妙見さんに伝わっとるそうにゃ不思議な箱ですたい。こんなきゃ自分の名前ばきゃた紙ぎればいれち、のりとばあぐっと、犯人のきゃた字ばっかり残って、あとんもんのつぁ、字の消えち、白紙ィなっとたい。」

彦一ン言うたとおり、やとい人たちゃいっそ名前ばきゃた紙ば箱んなきゃ、入れたげなたい。彦一がのりとばあげち、箱かり紙ばぢゃちみたりゃ、一みゃだけ白紙だったげな。庄屋どんな、たんがって、

「彦一、無実ぁ、平肋ばっかりで、あとはぜんぶ犯人かい。」

て、聞かしたとこるが、彦一ちゃ、

「こん箱はなんでんなかったい。ほんな犯人な平助たい。」

て、わるうちいうたげな。

第49話 あまんじやく

彦一の、となりのうちィ金作ちゅうだぁるもすかんもんのおらしたげな。ちょうど球磨川ゃ、鮎つりよっとこれ、彦一がとおりかかって、

「おっさん、鮎つれたかいた。」

て、きいたりゃ、

「うんにゃ、鮎ば、捨てんにきたつ。」

彦一ちゃ、そらきたておもて、にやってして、

「そんなら、おるがひろうてきゃいこう。」

つっとった鮎ば全部もって来てしもうたげな。あくる日、彦一が稲ばかたげちもどりよったら、金作どんが仇うちしゅうておもうて、

「彦一、稲ンとり入れしよるごたるが。」

て、声ばかけたりゃ、彦一も調子ばあわせち、

「うんにゃ、稲のとりすてたい。」

て、いうたもんだけん、金作もよるくうで、

「そんなら、おがひろうちきゃいこう。」

て、いうて稲ばかちいで、もどったげな。とこるが彦一も、にやにやしながり、金作の後はちいて来よったとん、自分がえん前ンとこっで、

「おっさん、稲ひろいいったつな。」

「うんにゃ、稲かりいったつ。」

金作どんも、なんぎなしゃきゃいうたもんだけん、

「かりィいったつなら、もどしてもらいまっしゅか。」

て、いうて稲ばとりかえしたげな。ふっふいいながり、

「せっかく持って来たて、わりィやられたない。」

「なぁんの、かつがれたったい。」

彦一ちゃ、わるうて、うっつぁんひゃったげな。

第50話 スミくらべでカッパを負かす

彦一が千仏のどてばもどりよったりゃ球磨川ンふとかがわっぱンでちきて、

「彦一ちゃん、おっとすみくらんぼしゅかい。」

て、いうてきた。彦一もこんがわっぱやつァ、いつも子どんがしりばっかりとって、聞いとったもんだけん、

「うん、そらおもしろかろ、やろか。」

「彦一ちゃん、こるばかけしゅか。」

「よかたい。」

「彦一ちゃんがまけっなら、おが友だちぜんぶに、酒と、そうめんと、鶏の焼き肉ば、ごっそうせにゃんばい」

「よかたい、そんかわりィ、おがかったら、一年間飲む酒と、鮎ばもってけ、出けんときにゃ、そん皿はうちわってよかか。」

「うん、よかよか。」

がわっぱは、「こらしめた。」ておもうち、よるくうどった。どてで、とびこむ用意ばしてかり、彦一が、

「こん川ァ大分深かけん、とぶこむときゃ目ばつぶってとぶこむごてしゆい。」

「こんくんにゃんとァ、目ばつぶらんてちゃよかばってん。まぁよかたい。」

がわっぱは、いっだんうれっしゃして目ばつぶったげな。そん間ァ、彦一ちゃ太か石ばひるうてきといて、

「よかね、一、二、三。」

ドボンて、二つ水の音したばってん、とびこうだた、がわっぱと、彦一がなげた太か石だったげな。彦一ちゃ、がわっぱのとびこうだっばみて、いそいで、きもんなもったまんま、うっつあんもどってしもうたげな。がわっぱは、だいぶんたってかり、もうよかておもうて、浮きあがって見たばってん、彦一ちゃまだみえんだったもんだけん、彦一の息のなんかて、たんがって逃げぢゃあたげな。そりかりいっときして、彦一の家ン庭にゃ、酒一本と、太か鮎の一皿おいてあったげな。そりかり、紙ィことわってあったげな。

「彦一ちゃん、おるがわるかった。あぎゃんかけばしたばってん。こっでこらえちくんなり、こりかり子どんがしりゃとらんけん、皿だけはかんにんして。」

そりかり千仏でにゃ、がわっぱは、しりとらんごつなったげな。

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